6.後期小津印がそこかしこに感じられる作品。
『秋刀魚の味』でもそうだったけど、小津カラーは凄まじく美しい。
その美しさは小津固有のもので、小津にしか撮れない色合いである。
そこに宮川一夫が撮影担当とくれば、まさに国宝級の美しさだ。
話の内容としては、『浮草物語』の自身リメイクということで、目新しさは感じられないものの、小津がリメイクまでしたストーリーだけあって、重厚でいて斬新な面白さ、そして人生の陰影がそこかしこに感じられ素晴らしい。
中村鴈治郎は毒を含んだ男を絶妙に演じてみせている。
アメリカ映画の様に、ただの悪役で片付けることなく、その裏に見え隠れする人としての優しさみたいなものまで表現しているから凄い。
京マチ子は外見的に苦手な女優だが、本作では驚くほどに魅力的に見えた。
口は悪いが、情にもろいといった浮世の女性を、これまた見事に演じている。
その他、川口浩の若さ溢れる熱演、杉村春子の抑えた演技、若尾文子の色気、野添ひとみの可憐さ、そして笠智衆のご愛嬌カメオ出演、と見所にいとまがない。
小津作品の中でナンバー1とは思わないが、その完成度や奥深さという点において、上位にランクされるべき力作であろう。