12.《ネタバレ》 一見するとほのぼのとした「刑務所ライフ」を描いた様にも見える映画ですが
私はちょっとそら恐ろしい気がしました。
刑務所の実態を形式的に表した作品としては非常に良く出来ていると思いました。
しかし、本当の実態は多分こんな物では無いと思います。
主人公達を「5匹の犬の生活」と題され始まる刑務所生活。
朝起きてから寝るまでのほぼ全てを管理され、人権や尊厳の殆どを制限される生活。
それは自身が囚人(犬)であるからに他なりません。
多分、専属の栄養士が献立を立てて作っているであろう刑務所の給食。
主人公達はこれを何よりの楽しみとして皆嬉々として食う。
それに無常の喜びを感じる。美味いという。果たしてそうでしょうか?
消しゴムを床に落としただけで看守に「それを拾う許可」を求めなければ成らない囚人。
元々見ず知らずの5人が同じ雑居房という狭い檻に入れられ寝起きし
ほぼ生活の全てを規則ずくで縛られる毎日。私ならとても正気では耐えられません。
つまり、この檻の中の5匹は文字通り犬に成り下がる事でしか
生きて行けない状況に追い込まれたと言う事です。
自分が犬だからこそ規則ずくめの中の「僅かな自由」を楽しめる。
そしてそれは自分達がその生活に慣れたのでは無く。
「それ」を刑務所から強制される事で慣らされただけなのではないでしょうか?
この生活において犬になり切れない者は
非常なストレスや自我との強烈な葛藤に見舞われるでしょう。
だから私は刑務所の実態はこんなものでは無いと思います。
もっと後ろ暗く陰湿な苛めや暴行など、表に出ない形の実態が数多く有ると思う。
また、管理する側の看守も囚人を人間として扱わない事を日々訓練し、それに慣れてしまう。
名古屋であった看守のリンチ殺人などがクローズアップされ、検察が渋々公開した資料では
名古屋にある4つの刑務所だけで過去10年間に260名が死亡し
そのうち変死とされた囚人がなんと120名以上もいたそうです。
この監督はもしかすると映倫に引っ掛からない様に
わざとこの作品をほのぼのと作ったのかも知れません。
それほど日常の細々とした描写はリアルに描かれています。
ただ、その本音が何処に有るのかは巧妙に韜晦された作品だとも思います。