6.《ネタバレ》 小説では味わえない映画の魅力の一つとして「音」があります。
本作においても、作中の関西弁が早口であり、それによって主人公の吃音の「周りと歩調が合わない、取り残された感じ」が際立っていたのが印象深いですね。
序盤にて主人公が金閣寺(=驟閣寺)に見惚れているシーンで、唐突に音楽が流れだす演出などは「ちょっと分かり易過ぎるかな」とも思いましたが、総じて音楽は秀逸であり、それでいて多用する事は無く、静かな場面の方が多かった事も好印象。
また、何と言ってもラストにおける、燃える寺の囂々とした焼け音が素晴らしかったですね。
モノクロ映像ゆえか、それまでは驟閣寺の美しさを感じ取る事が出来なかった中で、炎上するその姿からは、圧倒するような美を感じられました。
原作小説には愛着がある為、柏木(=戸刈)よりも重要な人物であろう鶴川の出番が殆ど無い点。
そして、主人公が列車から身投げするという結末も、原作の「生きようと私は思った」という前向きな姿勢とは全く正反対である点などは、正直抵抗もあったりするのですが、そういった先入観を排し、一本の映画として観賞すれば、充分に楽しめる代物だと思います。
主演の市川雷蔵は、相変わらず惚れ惚れするような演技巧者っぷりだし、彼の悪友を演じる事となる仲代達矢の存在感も素晴らしい。
「あんた、その片端の脚が自慢なんやろ?」
「片端やなかったら、誰一人振り向いてくれる人あらへんもんな」
なんて痛烈な台詞を吐く新珠三千代の姿も、忘れ難いものがありました。
原作において、何よりも美しいと感じられたのが、あれほどのドン底に落ち込みながらも、なお生きようとした主人公の最後の姿だった事に対し、本作においては「驟閣寺と心中しようというかのように、刑事を振り払って身投げする主人公」の姿が、非常に醜く描かれているように思える辺りも、何だか興味深い。
様々な意味で原作小説とは異なる、意図的に対とした結末であるように感じられました。