6.《ネタバレ》 青森のマグロの物語かと思いきや、これもやっぱり生死をめぐる北海道の物語じゃないかと思ってしまう。「雪の断章」や「風花」もそうでしたが、相米慎二の描く北海道には不気味な風の音がして、死の匂いが漂い、その死のすぐそばには自暴自棄なセックスがあります。緒形拳は、ちょうど「雪の断章」の世良公則と同じにように、罪を背負って北海道へ死に場所を探しに来たよう見えるし、岸壁から船に飛び移る十朱幸代は、テトラポットへ飛び移る斉藤由貴にそっくりなのです。
はたして佐藤浩市は、青森沖で死んだのか北海道沖で死んだのか分からないけれど、彼が死ぬ前に口ずさんでいた都はるみの歌は、青森から北海道へ向かう連絡船の曲だったし、それは自暴自棄なセックスをする前に夏目雅子が口ずさんでいた曲でもある。
かりに「雪の断章」では罪を背負った人間が死に、「あ、春」では年老いた人間が死んだと考えるのなら、本作で死ぬべきなのは緒形拳であるはずなのだけど、なぜか通常の物語のセオリーとは順序が逆で、ここでは未熟さゆえに佐藤浩市が死ぬ結末になってます。これは残酷なリアリズムともいえるし、たとえば「あ、春」でヒヨコが孵化したり、「風花」でカエルが冬眠から目覚めたように、佐藤浩市の死と引き換えに夏目雅子が出産するともいえるけど、これを「死と再生の物語」と解釈するにはあまりにも無惨すぎる。
ちなみに「風花」の大友良英の音楽も、ちょっとうるさいと思うところがありましたが、この映画の三枝成章の安いサスペンスドラマみたいな音楽も全般的に邪魔でした。それこそ都はるみの音源を使ったほうがマシじゃないのかなと感じます。
なお、瀕死の佐藤浩市を放置してマグロを釣り上げる行為は救護義務を怠った法令違反じゃないかと思うのだけど、刑事役の寺田農が緒形拳を取り調べる場面がカットされたというのは、その後に入る予定のシーンだったのでしょうか。