2.《ネタバレ》 題名の「濡れ髪」の意味がどうしてもわからないが、「水もしたたる」と同じような美男の形容なのかも知れないと現時点では考えておく。自分としてはこの主演俳優がどういう人なのか年代の関係でほとんど知らないのだが、ただの二枚目役者でないことはこの映画でよくわかった。
中身としては笑いあり涙なしの痛快時代劇で、よくできた娯楽映画という印象である。若殿が「キ印」から始まって五万三千石の跡取りまで自力で上りつめるのは、話としては出来すぎだが見ていて飽きず、また最初と最後の野駆けの場面は清々しい。
それから登場人物としては、とにかく姫さまが稀に見る美形の上にお茶目でツンデレっぽいのがたまらなく可愛らしい。大和屋のおみねさんも意外に(といっては失礼だが)可愛いが、途中から身分違いをわきまえて、尽くすだけの立場になったのはかわいそうかも知れない。また柳橋芸者の蔦葉姐さんも艶っぽく世話好きで人懐こい感じなのに惹かれる。ほか男の登場人物としては、長屋仲間の与平次の最後の場面が鮮やかに決まっていたように思われた。
ところで、どうせ誰も読まないだろうから少し余計なことを書いておくと、劇中の大和屋はいわゆる口入屋だったようで、武家奉公人の派遣業務を中心に営業しており、その取引先がたまたま遠州佐伯(架空)の松平家だったということらしい。皆で剣術の稽古をしていたのは、映画に出たように市中で不良旗本やら何やらと衝突するのが常態だったということか。そういうのが考証的にどうなのかはわからないが、モノになりそうな人間を仕入れるために経営者(親分)が常に目配りしていたらしいのは、今回のストーリーにとって好都合な設定である。
また、終盤で立ち回りをやるのはこの手の映画として当然の展開なのだろうが、自分のところの家臣(江戸詰)が全滅しそうになるのはさすがにまずいのではないか、と見ていて心配になる。しかしこれが家臣団のリストラにつながり財政改革に役立つと思えば、まもなくの家督相続に当たって幸先がいいともいえる。とぼけたようでいてちゃっかりと結果を出す若殿である。