1.《ネタバレ》 まだ大倉貢に乗っ取られる前、東宝より真面目で良心的な映画を製作していた(その為に会社が傾いたあげくにゲテモノ映画を量産することになるとは皮肉)頃の新東宝が製作した大作です。大和と武蔵が戦中は軍機密で国民にはその存在が知られていなかっただけに、この映画で初めて戦艦大和を知ったという人も多くて、興行的にも大ヒットしました。私の父はこの映画を公開当時に劇場で観ていますが、大和の沈没シーンでは館内では嗚咽を上げる人やスクリーンに向かって合掌する人が沢山いたと語っていました。 大和のセットや戦闘シーンの特撮ははっきり言ってショボいです。これは同年に製作された東宝の『太平洋の鷲』と比べると一目瞭然ですが、これは円谷英二の特撮技術のレベルが高すぎると言えるかもしれません。でも大和は終戦時に写真や図面と言った資料が焼却されているので、当時としてはかなり実物に迫ったものだったといえます。これは生き残った能村副長が協力していることが成果につながったといえるでしょう。その特撮の悪イメージが強かったのですが、今回再見してみてドラマ部分が良く撮れていることに気が付きました。原作者の吉田満は東大から海軍に入ったいわゆる学徒将校ですが、劇中の吉村少尉の同期生たちもみな学徒将校という設定なので、自身の生と死の意味をめぐって葛藤するさまはいかにも戦前のインテリという感じでリアルです。また出撃までのシークエンスを観ても極限状況に追い込まれているのに、登場人物たちの言動は総じて落ち着いているというか達観の域に達している。これには僧職でもある松林宗恵が応援監督として参加していることが大きいのかもしれません。 この大和特攻、いわゆる坊ノ岬沖海戦は一応「天一号作戦」と呼ばれていますが、沖縄にたどり着けたら砲台になり乗員は陸戦隊になる(そう言っているのに陸戦用兵器は持って行ってない)などもはや作戦と呼べるような代物ではなかったと感じます。この戦闘で日本は3,700名が戦死したのに、米軍の搭乗員はたった13名が戦死しただけだったというのは、まったく驚くべき事実です。戦史においてもこれほどコスパの良い戦闘は、他にはちょっと見当たらないんじゃないでしょうか。