1.戦中から戦後にかけて、朴訥とした一人の男の生き様を綴った前2作に対し、今回は、映画製作当時の「現代」が舞台。こういう路線変更がシリーズを短命にする・・・? しかし、個々のエピソードを積み重ねた印象の前2作に比べ、こちらの方がストーリー的には纏まりを感じさせもします。舞台は現代に固定していても、進駐軍兵士と日本人女性との間に生まれた孤児(いわゆるGIベビー)が登場したりして、戦争を振り返る視点も挟みつつ。
しかし時代は高度経済成長、所得倍増計画の頃。まだまだ貧しい者と、ある程度の余裕が持てるようになった者とが共存している。同じ芸人仲間でも、前者が主人公の渥美清で、後者がその友人の長門裕之。しかし長門裕之とて、漫才のパートナーに見捨てられては「売れない苦悩」に直面せねばならず、これは今も昔も、変わりません。
そして、戦争が終わり、戦後が過去のものになりつつあっても、経済成長に伴って今度は、交通戦争の時代がやってきている。せっかくあの戦争を生き残っても、交通事故で散っていく無数の命が、新聞記事の数々によって示されます。
作中ではさまざまな「弱い立場の者」が描かれ、そうすると何せ昔の作品ということもあって、差別用語のオンパレードとなり、こちらも反射的にヒヤヒヤしてしまうのですが、過去を無かったことにする訳ではなくこうやって居心地の悪さを感じるのが、ちょうどよいのかも。
今回の主人公は芸人ということで、庶民の生活、というのとはだいぶ雰囲気が異なりますが、それゆえ、というべきか、ストーリー的なまとまりもあって、前2作とはまた異なる魅力をもった作品となっています。庶民の鬱屈みたいなものは、加藤嘉さんがこれを一身に体現していて、その熱演たるや、最凶レベル、いや最狂レベルというべきか。