10.《ネタバレ》 『妹を食いやがったな。妹との約束だ。おまえらも食ってやるぜ』なるほど。理にかなっています。
ある出来事がトラウマになっている場合、そのトラウマの元凶に自分がなることで、トラウマを克服するというケースがあります。
原作は知りませんが、映画を見た限りでは、レクター博士はそれに近いのではないでしょうか。
ある凶悪犯のルーツを辿るサスペンスドラマとしては十分に面白い。
ですが、ハンニバルシリーズとして見ると、期待値の高さに相応しい傑作、とは言い難いものがありますね。
グレアム、クラリスの両名は、レクター博士の異常性を、相対的に強調するような存在だった気がします。
この作品の『妹』、そして『レディ・ムラサキ』。この両名は、『人間ハンニバル』の輪郭を、私達に見せてくれているような気がします。だとすると、レクター博士の熱心なファンに受けが悪いのもうなずけますね。
更には、『妹の復讐』という動機の部分を明確にしてしまったことで、ますます彼の神秘性は失われてしまいます。
そして、鎧、刀、原爆といった日本的マストアイテムの登場。これは良くなかったかもしれません。生粋の日本人である私達にとって、『チープな作り物』というイメージを意識させてしまいます。
そんななか、レクター博士を演じたギャスパー・ウリエル。彼は良いですね。この作品の掘り出し物的人材じゃないでしょうか。レクター博士の狂気を、予想以上に表現してくれていたと思います。
悪党達を、凶悪な暴力でねじ伏せる、悪の華。その美しさは、この作品でも十分に堪能することができました。
中盤以降のサスペンスアクションな展開には、十分満足しています。
ただ、ちょっと長いですね。
このシリーズはどれも尺が長めなのですが、基本的には必然性のある長さで、鑑賞中にその長さを感じません。
ですが、この作品は、その長さを感じてしまいます。間延びしている部分があるのでしょう。そしてその長さに必然性も感じません。
駆け足気味だとドラマに深みや重みがなくなります。
今作が、その性質からストーリーの深みを大切にするのはわかります。
ですが、あまりにもったいぶって冗長になると、間延びして緊張感がそがれます。
なかなかバランスが難しいですね。