2.《ネタバレ》 大変風変りな作品だ。表面上は、破局の危機に陥った夫婦が再生するという愛の寓話。夫の浮気が原因で、夫婦関係は完全に冷え切っている。妻ヨンは空虚で閉塞的な毎日を送っていたが、ある日自殺未遂をした死刑囚のニュースを見て惹かれる。孤独と自殺願望という共通点があるからだ。彼女は死刑囚に会いに行き、謎の保安課長の計らいで、特別に面会が許される。ヨンは子供の時の五分間の臨死体験を語る。体が風船のように大きくなる、いわば万能感で、「悪くない感覚」だ。死刑囚はヨンの髪の毛を抜くが、髪は女の象徴で、彼が性愛を欲していること。ヨンは面会を重ねるごとに春、夏、秋の四季の演出で死刑囚を愉しませる。妻の行動を知って驚いた夫が叱責、諫言すると、妻は自動車自殺を図る。夫は悔悛し、愛人と別れ、妻に許しを乞う。妻の氷の心は漸う溶けていった。自分の自画像として製作した、胸に穴の開いた天使塑像を粉々に砕き、わざと汚して捨てた夫のワイシャツを持ち帰る。
最後の面会で、ヨンは死刑囚の口と鼻を塞ぎ、臨死体験を追体験させようとした。しかし、死刑囚は苦しみもがくばかり。ヨンは、二人の間に共通点など無く、死刑囚が自分に会うのは、性愛目的だと悟った。ヨンの心は再び夫の元に戻った。死刑囚は、ヨンという希望を失くして絶望した彼を憐れんだ同室者によって殺された。謎の保安課長は、監督自身が出演している。映画に自分自身を投影している。保安課長は、さしたる信条もなく、覗き見的好奇心のみで恣意的に命令を下す。監督の指図一つで物事が決められ、俳優が動く。高慢になった自分を卑下し、揶揄する自虐的演出。ヨンの面会の奇矯な演出と下手な歌は、監督の過去の作品の自己評価で、碌な作品しか作ってこなかったという自省が込められている。映画製作に行き詰まり、自己嫌悪に陥った監督が、もがき苦しみ、暗中模索する中で思いついた、切羽詰まった末の演出なのだろう。その時の、息もできない体験が題名となったと思う。ヨンが自分を見つめ直すことで立ち直ったように、監督も自省することで立ち直った。死刑囚は、金や名誉を求めるもう一人の監督で、再生するためには、彼が死ぬ必要があった。自己再生は自分殺しでもある。愛の寓話の映画であると同時に監督自身の再生の実録でもあるという、映画の表現として極めて斬新な作品だ。ある意味、独りよがりだが、ふざけているのではなく、至って真摯だ。