1.ナショナリズムの問題は根深く、迂闊なことを言えないイメージがあって、なんとなく敬遠してしまう。本作もテーマがテーマだけにそこまで観たい内容ではなかったのだが、松江監督の卒業制作、いわばスタートを飾る作品であるという点がどうにも気になり、四の五の言わずにと言い聞かせ、とりあえず鑑賞。感想としては、なかなか面白かった。まずこれが卒業制作だということが凄い。編集の技術や情報収集の行動力その他諸々、プロ顔負けの、舌を巻く出来だと思ったのは大袈裟だろうか。だが、少なくとも、お金を取れるクオリティであることは確かだ。内容が内容だけに説教っぽさに満ち満ちた仕上がりになりそうなものだが、このドキュメンタリーは松江監督本人のアイデンティティに対する漠然とした悩みが出発点とあって、全体論ではなく、「うちの家族は~」に終始しており、教科書的というよりは私小説的であるため重くない。同じ状況下にありながら、悩める兄と、飄々とした妹の対比は特に面白かった。自分はドキュメンタリー映画にはあまり期待していなかったが、松江監督の作品を観てからその底力を知った。「うちの家族はどこにでもキムチを持っていく」というまるで小学生の作文のような文言の背景に、ここまで壮大な家族の歴史物語があるなんて。切り口次第で、現実はたくさんのドラマを生み出すんだな、ホント。