1.ホウ・シャオシェンは『珈琲時光』のときに小津の真似をせずに自らの演出スタイルで東京を描いたように、今回もけしてラモリスの真似をせずに今のパリを描く。長回しで見せる現代の喧騒を静かに見守る赤い風船。いつもの彼の映画のように物語以上に物語の根底となる生活が描かれる。小さな苛立ちや不安が生々しく、それでいてそれらを支える優しさやその中を生きる力強さがしっかりと映し出されている。そしていつもの彼の映画のように電車はこの映画のために適格に動き、建物はこの映画のために完璧にそこに立ち、光はこの映画のために最適な量で差し込む。そうとしか思えないように作られている。風船もまたラモリスの風船がそうであったように抜群の表情を見せてくれる。