1.社会派的メロドラマ、あるいはその逆。立退き反対の人たちを英雄的に撮る、ってことは絶対にしない監督で、裏から攻める。裏切り者の視点。当人に裏切ってるなんて意識はない。なんかBC級戦犯に通じる話だ。肉はあるけど頭はない、これこそ庶民、ボスの言いなりにハイハイと実行していくあたりはいじらしくさえある。「親方のご恩を忘れるな」というのが彼に植えつけられたイデオロギーなの。娘への恋で自分の行為を発見していくってのは、安易といえば安易だけど、話はスッキリした。肉屋で働いていて肉がいっぱいあるのは監督の好みか。親方のとこのキャンディーじいさんが面白味を出す。ブニュエルが老人に対して、こういう愛嬌を感じさせる演出をするのは珍しい。ラストで鶏がパロマをにらみつけるのは、『忘れられた人々』との関係よりも、ブルートがかわりに持ってきた鶏だってことで見たほうがいいと思う。これは『エル』との二本立てで観たので、こっちはちょっと印象が薄くなった。三百人劇場という新劇用のホールで、ときどき映画もやってて、こういう「メキシコ時代のブニュエル」なんて嬉しい企画が不意にあったりし、要チェックのとこだった。しかしここもなくなったと聞く。