5.『息子』(1991)において、聾唖である和久井映見と永瀬正敏の間で交わされた
FAXのやりとり。
そのやり取りには説話的な納得性と同時に、その手書き文字を秀逸な人物描写と
する細やかな演出が施されていた。
対して、本作で蒼井優と妻夫木聡の間に交わされるメール文字の何と味気なく、
無意味な事か。観客は事態の推移を既に知っているのだから、
蒼井の表情変化なりを見せるだけで事は足りるわけで、
メール画面の文字は説話的にも無駄な二重説明でしかない。
一方では、妻夫木らの馴れ初めを写真一枚で物語らせるスマートさを持ちながら、
一方では上のような蛇足・無駄もあちらこちらに見受けられる。
または、『息子』でのコンロにかかったおでんの鍋のような、
簡素にして情緒豊かな小道具の類に欠けるのも寂しい。
作為性も露わに画面を賑わすエキストラ達は、
おそらくは山田流のリアリズムなのだろうが、蒼井と吉行和子が対話している奥で、
向かいの窓に姿を見せるアパート住人などはどうなのかと思う。
末っ子の部屋の開放性を以て彼の性格を演出したものとは思うが、
シーンの阻害要因となってはいないか。
貶しどころも多々あるのだが、俳優陣は文句無し。
高級ホテルの窓から見る観覧車の夜景シーンは本作オリジナルのイメージとして
印象深い。