3.《ネタバレ》 映画のタイトルはジュリアですが、話の中心はあくまでリリアンでしょう。彼女にとってダシール・ハメット(ダッシュ)とジュリアがいかに重要な存在だったか、それがテーマのようです。だから前半の劇作家としてデビューするまでのいきさつも、リリーにとっては欠かせないものなのです。個人的には翻訳ミステリが好きなので、興味深く見ました。
後半のベルリン経由でモスクワへ行く話は相当面白いのですが、それまでと雰囲気がまったく変わってしまうので、はたしてよかったのかどうか。あまりにも面白すぎて前半とバランスがとれていないとも思えます。それにしても、本当に“小説にでも出てきそうな”展開で、ある意味使い古された陳腐な設定ですが、それをこれだけ引きつけてみせるというのは、たいしたものです。もっともこれは、主人公が実在の人物だというリアル感が、大きくプラスになっているとは思います。ジュリアが亡くなった後も、素人が地下組織の壁にはばまれるというリアルな展開で、安易なハッピーエンドよりも見ごたえがありました。レジスタンス組織の徹底した秘密主義を描くことで、戦争それ自体の恐ろしさを影のように浮かび上がらせています。
リリアン・ヘルマン自身が原作を書いているということで、リリーは多少欠点はあるものの、あまりひどい人物になっていないのが、ちょっと不満でしょうか。あと、やはり前半と後半でバランスが悪い。前半が時代と特にシンクロしていないのも、残念でした。