3.《ネタバレ》 1940年にドイツが北欧に侵攻した際の映画である。先に降伏したデンマークには「エイプリル・ソルジャーズ」(2015)という映画があり、内容は全く違うが姉妹編のようでもある。原題のKongens neiは「国王の“No”」(拒否)の意味らしい。
まず、最初にノルウェー側がドイツの大型艦を簡単に撃破してしまったのは驚いた(前部射撃指揮所に初弾命中!)。砲弾2発、魚雷2本命中というのも史実のようで、ノルウェー軍恐るべしと思ったが、そもそも沿岸要塞とはこういう時に威力を発揮するのだということか。映像的には炎上する艦の様子がかなり悲惨だった。やはり戦争は恐ろしい。
その一方で意外に笑うところもあったりして、個人的にはドイツ公使の挙動にけっこう笑わされた(奥さんを完全に怒らせてしまって大変だ)。少年兵の敬礼にも笑った。
全体としてはノルウェーの王家とはどういうものかを表現していたようで、北欧共通のことだろうと思うが、その辺の人々と一緒に歩いたり逃げたりする姿によって国民との間に隔てがないところを見せている。国王本人はそれほど威厳のある人のようでもなかったが、何より周囲から寄せられる敬意がこの人物を国王として成り立たせているように見えた。また家族思いの印象を強く出しており、特に孫3人にはかなり和まされたり泣かされたりする。
ちなみに国王の言っていた「Alt for Norge」(全てはノルウェーのために)は王家のモットーだそうで、これは国民の望みで招かれたからにはその国民のために尽くす義務があると解される。これなら国王の言葉として理解できるが、日本語字幕のように「全ては祖国のために」と書いてしまうと、この祖国に生を受けた者は祖国に全てを捧げて当然、という感じの過激なナショナリズムを国王自ら煽っているかのような印象になる。ドイツに抗う小国の心意気というニュアンスにしても勝手な改変はすべきでない。
ところでラストの説明文を読むと(原文をGoogle翻訳で)、戦時に国王が果たした役割というのがこの映画のテーマらしい。それは息子が考えたように、勝手に軍部をたきつけるようなことではなく、また自ら戦いに臨むことでもなく、「政治プロセスへのユニークな介入」(同前)によるものだったとのことである。
国王の考え方は本人が説明していたが、そこで絶対条件だったのは“民主主義の根幹を損なわない”ということである。一方の政府としては“国王を失ってはならない”というのが最優先事項だったようで、結果としてこの点が決定要因になったと取れる。そのように政府が判断し、また国民(代表:少年兵)が支持したのも、平時に国王が象徴としての役割をしっかり果たしていたため国民の敬愛の情が厚かったからだ、ということなら美しい感じの結論になる。これこそがノルウェーの立憲君主制だ!!!ということかも知れない。
しかし、結果としては国王個人のこだわりのために国民多数が死んだ形になっており、これでよかったという確信の持てない話になってしまっている。戦後日本人なら問答無用で全否定するだろうし、劇中の国王本人にも迷いはあったようだが、まあどう考えるかはノルウェー国民次第と思うしかない。ちなみに終盤で、木の根元に少女がいた場面の意味は、国王個人が後悔したかどうかに関わりなく、ノルウェー国民には自分らの手で自分らを守る意思がある、と解すべきか(ちょっと難しい)。
よくわからないこともなくはなかったが、映像面や演出などを含めた印象として悪い点はつけられない。