1.2020年8月に43歳の若さでこの世を去ったチャドウィック・ボーズマンの“遺された”主演最新作は、80年代〜90年代の良い意味で雑多な娯楽性に溢れたポリスアクションであり、今この瞬間の時代性を根底に敷いた骨太なサスペンスでもあった。
幼き頃に殉職した父親の面影と無念を追うように警察官となった主人公は、「正義」の名の下に、凶悪犯を射殺し続ける職務経歴を問題視されていた。そんな折、真夜中のコカイン強奪に絡み警察官8人が殺害される凶悪事件が発生する。
殉職した父親への想いと、自らが掲げる「正義」の正当性を信じて、犯人を追う主人公だったが、次第にくっきりとあらわになっていく陰謀の輪郭に反するかのように、信じ続けた「正義」に対する焦点がぼやけていく様が印象的。現代社会の「闇」を描くドラマとして面白かったと思う。
劇中で登場するホテルの名前が「パララックスホテル」となっていることからも明らかなように、この映画が伝えるテーマは、この社会における「視差(parallax)」であり、異なる視点で見ると浮き上がってくる社会の「真実」そのものであろう。
浮き上がった真相に失望し、絶望しながらも、主人公は己の正義を貫き通す。
しかし、事件解決という“夜明け”と共に帰路につく彼の表情は暗く沈み、その虚ろな瞳に光は無かった。
自分が幾人もの犯人の射殺も厭わず貫いてきた「正義」とは一体何だったのか?
殺害された8人の警察官たちや、欺き陰謀に巻き込んだ地元の警察官たちと同様に、もしかすると、殉職した父親にも表沙汰にならなかった“真実”が存在するのかもしれない。
そんな主人公の思い疑念に包み込まれるように、映画は幕を閉じる。
「正義」とは何か?
視点や立場によってその形は都度様変わりしてきた。
今この瞬間も、異なる正義と正義がいがみ合い、傷つけ合い、悲劇を生み出し続けている。
主人公と同じ虚しさを感じると共に、その主演俳優がもうこの世に居ないことに、喪失感が深まる。