1.《ネタバレ》 天才指揮者の罪と罰。
カリスマの皮を被ったモンスターなのか、はたまた男性社会に矯正された哀れなモンスターなのか。
毅然さの裏側で脆く孤独なリディア・ターの重層的なキャラクター性をケイト・ブランシェットが的確に表現。
架空の人物とは思えない立体的な人物像で迫ってくる凄みに、3個目のオスカーを取っても誰も文句は言わないだろう。
遠い昔とは違い、カリスマだから暴挙が許される時代ではなく、ネットで拡散され一気に名声を失ってしまう恐怖。
彼女は弟子の死に向き合うことなく、その傲慢さが仇になって自滅してしまった。
歴史に残るアーティストでも人格破綻者なのは珍しくないが、その功績を重罪によってかき消す権利はあるのか。
誰もが正義という刃物を持っている自覚を持たないといけないはずだ。
彼女は東南アジアで再起を図る。
その仕事内容は人気ゲーム『モンスターハンター』のオーケストラ演奏会で、観客は皆そのコスプレをしている。
落ちぶれてもなお権力の残骸に縋り付いているのか、原点に立ち返って新たな"発見"をするかは分からないが。
しがらみから解放され、タダでは起きない芸術家としての揺るぎない自信と探求心に、
趣味で絵を描いている私にとって、その矜持に共感してしまうラストだった。