1.《ネタバレ》 彼女の名は、エイミー・カー。何処にでもいるような平凡な主婦だ。高校生の長男とまだ小学生になったばかりの娘と郊外の静かな田舎町で暮らしてる。ただ、その生活は決して順風満帆とは言えなかった。何故なら一家の大黒柱である夫が一年前、急な交通事故でこの世を去ってしまったからだ――。父親っ子だった長男ノアはそれ以来精神的に不安定となり、塞ぎこむ日々が増えてしまった。母として何とか生活を立て直そうと努力しているのだが、それでも難しい年頃であるノアとはいつも擦れ違ってばかり。その朝もノアは自室に引きこもり、学校には行かないと言って寝込んでしまった。心配しながらも日課であるジョギングに出かけるエイミー。誰もいない森の散歩道をただひたすら走り続けていたそんな時、彼女のスマホに信じられないような連絡が届く。なんと息子の通う高校で銃乱射事件が起こり、今も犯人は人質をとり教室に立てこもっているというのだ。息子に連絡を取ろうとするも何故かまったく繋がらない。すると刑事を名乗る男から電話があり、「あなたの息子さんが学校にいる」と告げられるのだった……。人里離れた森の中をジョギング中にいきなり銃乱射事件に巻き込まれてしまった母親をワンシチュエーションで描いたスリラー。舞台となるのは閑散とした森の中、登場人物もほぼナオミ・ワッツ演じるこの母親一人のみ、あとはただたすらスマホで色んな人とやり取りするだけでストーリーを進行させるこの作品。思い出させるのは、トム・ハーディ演じる父親が車を運転しながら複数人と電話でやり取りするのみで描いた『オン・ザ・ハイウェイ』や緊急通報室に掛かってきた電話だけで展開する『ギルティ』でしょう。こーゆーほぼ一人芝居となる映画って、やはり主演となる役者の実力がポイントとなるものですが、そこは百戦錬磨の名優ナオミ・ワッツ。愛する息子を救うために奔走する母親を熱演していて大変見応えありました。最初はただ息子の安否を知るために奔走していたのに、刑事からもしかしたら犯人はあなたの息子さんかもと告げられた時の茫然自失となる姿なんかもう見てらんない。それでも息子の留守電に「もちろん信じてないけど、もしそうなら終わらせて……」と悲痛なメッセージを残すシーンには思わずウルっときちゃいました。その後、とにかく愛する息子の為にもはや暴走してしまう彼女には痛々しいと思いながらもいたく共感。ともすれば退屈になりがちお話なのに、最後までずっとハラハラドキドキしながら観られたのは、このナオミ・ワッツの熱演と監督のツボを押さえた演出力の賜物。まぁ突っ込みどころは満載ながら(朝のジョギングに8キロも離れたこんな森の奥深くまでくる?とか、容疑者の母親かもとなったらさすがに警察がすぐ迎えをよこすだろ!とか)、エンタメ映画としてなかなか良かったんじゃないでしょうか。