1.《ネタバレ》 妻が正体を隠していたときの男はどちらかというと「恋に恋する」あるいは「家庭に恋する」男だったのが、正体が悪女だったとはいえ発覚してから初めて男は女を心底愛する。男の会話の端々にそれを感じる。「愛の逃避行」と言っても一方だけの愛。男のおそらく初めての純愛に対し、悲惨な過去を送ってきた女の自らの安全とお金のための逃避行。この映画はラストがいい。
前半(盗ってくれと言わんばかりの口座の共同名義の申し立て、逃げた女を誰よりも早く偶然見つけてしまう等)のご都合主義的展開を初めて流す女の涙が帳消しにしてくれる。女の白いドレスに身を包んだ登場シーンに対しエンディングで見せる黒いコートの後姿がこの先の二人の運命を暗示しているようだ。逃避行に雪国はベタだが、だからこそ黒が印象に残る。