32.リンチ作品を鑑賞するのは、『砂の惑星』『ブルーベルベット』『イレイザーヘッド』に続き4作品目。
彼のつむぎ出すストーリー展開と映像世界には独特なものがあり、それは観る人を選ぶ個性が強いものである。
私にはどちらかというと“肌に合わない”。
しかしこの作品は、“リンチ作品史上、最高傑作”であると推す声も多く、是非観たくなった次第だ。
主演はナオミ・ワッツ。
この作品で初めて知った女優さんだ。
この作品では対照的な二人を演じている。
いわば“一人二役”だ。
前半に出てくる“ベティ”の方は、ハリウッド女優を目指す清涼感溢れる爽やかなキャラクター。
それに対し、後半で演ずる“ダイアン”の方は、病的で荒んだ陰鬱なキャラクターだ。
前知識が無く観たので、同一人物が演じていることに気付くまで結構な時間がかかってしまった。
それだけ対照的な二人を、ナオミ・ワッツが卓越した演技力で演じ分けしている。
それと同時に、リンチの演出の上手さに舌を巻くほかない。
ナオミ・ワッツであるが、キュートでありながら、そのイメージを見事に打ち壊す魂のこもった熱い演技。
素晴らしいの一言。
そして何よりスレンダーなのがいい。
さて、この作品だが、巷ではもっぱら“超難解作品”と言われている。
かくいう私も鑑賞終了直後は全くの理解不能状態。
しかし、私がその手の難解映画を観た直後に必ず感じる“不快感”が無かったのが不思議だった。
何故だか分からないが、そのままにしておけない気持ちになり、ネット上であらゆるレビューや解説を調べまくった。
この作品に限ってはネタバレしている状態で観たくらいの方が丁度よい気がする。
DVDに付いているインタビュー映像の中で、リンチは、
「この作品は理屈で解釈するものではなく、音楽の様に直感で感ずべきものだ。」
の様なことを言っている。
この発言を聞いていると、さも“ストーリーはあって無い様なもの”と感じてしまう。
実際に、観た直後はチンプンカンプンでもあるし。
しかし、上の解読を読んでいるとそうではないということに気付く。
リンチは詳細にストーリーを積み上げてこの作品を創り上げたのだ。
ある黒髪の女性に恋をした金髪女性の「愛憎」「嫉妬」「絶望」「後悔」等を、切なくミステリアスに、そして緻密に描いた作品なのである。