2.《ネタバレ》 SFは基本的に現在の延長線上にあるので現代劇よりもむしろその時代性を反映しすぎるということがある。この映画もそういうところがあるが、スター・トレックは昔からその困難な未来予測SFというミッションに真正面から取り組んでいるシリーズだ。
23世紀の世界と20世紀のギャップを描くのはオリジナルTVシリーズの得意技だが、この映画ではタイム・トラベルを扱いながらタイム・パラドックスを避けるシナリオの妙を見せる(完全に避けきれてはいない点はご愛嬌)。珍しくチェコフにスポットライトが当たるが冷戦時代のこのソ連ネタが面白い。キャストはみな年齢を経てもろ中年集団ではあるが年齢なりの輝きを放っている。ドタバタコメディのくだりもオリジナルTVシリーズによく見られたパターンだが、これも時代変化に対してスタトレが本来持つ社会的洞察があってこそだ。
かようにスタトレらしいスタトレな本作だが物足りなさは残る。それは映画版1作目にあったような哲学性と芸術性だ。スター・トレックという作品はただでもシリアスな成立が難しいSFというジャンルに哲学性と芸術性を持ち込むことでことで別格の存在になった。このシリーズは単なるエンタメではない。クジラと交信を試みて地球を危機に陥れる謎の存在、あれこそがスタトレ世界のテーマになるはずなのだが、この映画では単なる「設定役」としてだけ現れ消えていき、結論をクジラ・エコ・スピリチュアリズムに丸投げしてしまった。
音楽は最初のファンファーレ以外はTVシリーズとも映画シリーズとも違う本作オリジナル。楽曲自体は素晴らしいのだがシリーズにはシリーズの音楽が必要と改めて思わされた。良い音楽だけにもったいない。字幕で観た後で吹き替え版も観たが、よく言われるようにスタトレは吹き替えが良い。まず字幕版はSF設定やストーリーに必要な情報量が少なすぎる。吹き替え版は矢島正明のカークが圧倒的なだけでなく他のキャストも力が入っている。正直力入り過ぎで全体的にくどめだが、元が薄すぎるので素直に感動したければ吹替版だ。