7.《ネタバレ》 原作の小説が書かれたのは100年以上前。それを考えれば、この小説が先進的で本質を捉えた優れた著作だったことに疑いは無く、そしてまた、これを映画化する意義が製作当時でも全く失われていなかったのも間違いの無いところだろう。特に、登場するふたりの人物描写に見られる「相違」、モーリスに対してクライヴがより適応力が高いというか、自分の感情・本能と社会的自己との整合をより器用にこなせるという風に描かれる点には、原作者のこの事柄に対する的確で深い理解を伺わせる(クライヴが、LGBTとしていわゆるバイセクシャルに該当するような個人であったのか、それともこれは彼の恋愛当事者としての特性・個性だったのか、という点は定かである訳では無いとも言えるが)。
ただ、話の内容自体は、昨今のより高度なLGBT映画に比べればだいぶ普遍的、かつシンプルなものだと言える(それが良いのかも知れないが)。その意味で言うと(同様のテーマの作品が他にもあるという意味で)これを鑑賞することの社会的意義が製作当時よりはやや薄れたであろう現在では、実際に本作を観た人々の作品自体の評価もある程度変わってくる様にも思われる。
しかし、時代的で文芸的な雰囲気の素晴らしさに加え、この時代のこの事柄を描いたという史料的な意義からも、その部分での本作の価値は決して今後も損なわれることは無いだろう。むしろ、同性愛に対する偏見が少しずつでも薄れつつある現在の方が、本作の恋愛映画としての純粋な良さというものは、よりコレクトリーに感じ取ることが出来ると言えるのかも知れない。