3.この作品にはいくつかの時代が舞台になりますが、それぞれの時代の作りこみがとても深く、感心しました。
私見ですがこれまで昭和30年代をはじめとする過去の再現というと、とてもとても・・・というものばかりだったように思います。明らかなCGでレンガの建物を量産したり、現代の車が見切れてしまったり、極めつけは現代顔の代表と言われる女優のモンペ姿・・・TVの再現ドラマレベルのものが少なくありませんでした。
しかしこの作品の空気は昭和の空気をろくに知らない私が言うのもなんですが本物に近いと感じました。
嬰児殺しを報じた記事の文字の絶妙な不規則感、つぶれ具合、フォント、どれをとっても昭和30年代の記事に見えました。
戦前からの重厚な建物の前で撮られた現代風の顔が見えない高野家婚礼写真には奥深い不吉さが感じられました。
吉兼家の調査記録は明治大正の本物の史料にしか見えませんでした・・・
惜しむらくは奥山家の奥座敷が若干新しく見えたところでしょうか。
こういった画は「あるかもしれない恐怖」を「実在の穢れ」に昇華させるには十分なつくりでした。
個人的には女優霊以来、「画」に恐怖を感じた作品でした。