1.《ネタバレ》 田坂具隆監督が「ちいさこべ」に続いて山本周五郎の原作を錦之助主演で映画化したもので、なんと今回は短編小説3篇をオムニバス形式で映画化し、その三人の主人公を錦之助が演じるという異色作。錦之助は今井正監督の「武士道残酷物語」でも主人公七人を見事に演じ分けていたが、やはりこの映画でもそれぞれキャラクターの違う三人を見事に演じ分けていて素晴らしく、また、田坂監督の演出も三話とも違うカラーが出ていてさすがにうまいと感じる。最初の「冷飯」。冒頭の主人公がくず屋(浜村純)とぶつかるシーンからどこかユーモアがあり、全体的に明るい雰囲気の話で、後味がよく、この話がいちばん楽しめた。中でも三男を演じる小沢昭一はやはりしゃべっているだけで笑いを誘う。それに母親役の木暮実千代も印象的だ。次の「おさん」は「冷飯」と比べると暗い感じがどうしてもしてしまうし、主人公に感情移入しづらいという点もある。現在と過去を交錯させて主人公の一人語りでストーリーを進行させるという構成もちょっと複雑なのだが、この話がこの三話の中で完成度が最も高いように感じた。この話で主人公の妻を演じるのが三田佳子。イメージ的にあまり好きではない女優だが、この話の彼女は素晴らしく、中でもラスト死んだ後に幽霊となって主人公の前に現れ、主人公と語り合う中で自らの心情を語るシーンが感動的だった。最後の「ちゃん」は、タイトルだけだとなんか「子連れ狼」を連想してしまいそうだが、いかにも山本周五郎原作らしい家族の話で、ありがちなんだけど泣ける。ここでは既に書かれている方もおられるが、森光子。この人も苦手なのだが、ラストの主人公とのやりとりはなかなか良かった。話は少しシリアスだが、三木のり平演じる泥棒の仕草などは見ていて笑える。そしてなにより家族の温かさがよく描かれていて見た後とても幸福な気持ちになれるのがいい。個人的にはさっき書いたように「冷飯」がいちばん楽しめたが、それでも三話ともとても丁寧に作られている佳作だと思う。余談だけどこの映画の公開と同時期に東宝で黒澤明監督の「赤ひげ」が公開されているんだけど、偶然かも知れないがこの映画でも「赤ひげ」と同じ佐藤勝が音楽を担当しているのが面白い。それにしても映画のタイトルが律儀でシンプルだなあ。