1.《ネタバレ》 マーティン・スコセッシが制作を仕切る「ブルース・ムーヴィー・プロジェクト」シリーズの中でイーストウッドが手掛けたドキュメンタリー。
レイ・チャールズをはじめデイヴ・ブルーベック、ファッツ・ドミノといった伝説、その先人たちの系譜をたどりながらブルース・ピアノの歴史に迫っていく。
初っ端から響き渡るピアノの音色。
「ピアノ」を創造した先人の肖像、製造し、組み立て、弾き語る映像・写真に残されたピアニストたち、それを経てレイ・チャールズをラフな格好で迎え入れる。
この作品のイーストウッドは実に気軽で、歴史も振り返りながら音楽を楽しみ・学んでいこうという姿を見せてくれる。
白黒の映像で記録されたピアノを弾いて弾いて弾きまくる人々の姿。イーストウッドも自らピアノの音色と言葉で「語り」続ける。
最初に登場するレイ・チャールズの存在感。
キャメラの前を幾度か通り過ぎるスタッフを他所に、サングラスをかけたまま傍らに座り、先人の演奏とスタジオの光景を交互に交え、時折咳をしながら熱を帯びていく語り。
レイがイーストウッドの隣で弾く場面。
鍵盤の上で指先が踊り、リズムをとる足先、起き上がるハンマー。イーストウッドは立ち上がりピアノの脇へ移動し、チャールズは肉体を揺り動かすように歌声をあげる。大きなピアノのフタに反射するチャールズの笑顔が素敵だ。
キャメラもあまり動かないようで、鍵盤を叩く手からピアノの上で波打つハンマーへ移動しながらその光景を捉えたりする。
若き日のレイのエネルギッシュな演奏。
ピアノを弾きながら体を大きく揺らし、足でステップを踏み、微笑み、旋律と歌声を会場に轟かせる。膝を楽器のように叩き、ステップとリズムを刻み盛り上げ、コーラスの女性陣、バックの奏者もそれに合わせノリにのっていく。
レイに先駆けたピアニストたちの演奏も凄い。
様々な技巧でプロフェッショナルとして、音楽を心から楽しみ鍵盤の上で指先をけたたましく奔らせる。ピアノそのものまでが彼等・彼女等の演奏に反応でもするかのように動き出したりもするのだ。
しかしYAMAHAのピアノって昔から向こうで活躍してたんだな(誰がそのピアノを弾いていたかは見た人だけのお楽しみ)。
その系譜に「俺もいるんだぜ」とばかりに「センチメンタル・アドベンチャー」でテンガロンハットを被りながら演奏を務めるイーストウッド自身の姿も挿入してしまう。しかし良い笑顔だこと。
肩に手をやり演奏を終えた者を称え、取り出したハンカチで口の汗をぬぐう熱気。
現在のピアニストの手から過去の奏者たちのセッションに飛び、再び現代へと戻り、受け継がれていくメロディ。
最後は今までの演奏をひたすら繋げていき、レイの歌声で締めくくる。
イーストウッドは自ら映画音楽にも携わり、作品でもチャーリー・パーカーの伝記「バード」、カントリー歌手を題材にした「センチメンタル・アドベンチャー」、「ピアノ・ブルース」の後にはフォー・シーズンズの伝記「ジャージ・ボーイズ」と音楽に対する思い入れをぶつけてきた。
いずれの作品でもピアノの音色が響き、無くてはならない存在だった。それだけイーストウッドはピアノが好きなんだろうなあ。