7.《ネタバレ》 佐藤浩市と伊勢谷友介が演じる歳の離れた兄弟についてだけ書く。二人の演じる兄弟には味があった。
「母ちゃんは、歳を取ってから生まれたお前ばかりかわいがった」と思っている兄は、13年間音沙汰なしで、東京から逃げ帰ってきた弟に不満だ。弟の言い分は、「俺だって必死にやってきた!」だ。「俺や母ちゃんを捨ててか!」「そうだよ!」 で、「馬鹿たれが!!」と顔に一撃を食らって、弟はもんどり打って腰掛けから落ちる。(ここのひっくり返り方は見事だ。)弟の言った「そうだよ」は「それほど自分は必死だった」の意味だろうが、兄からすれば“肯定してはならないこと”だった。こんな風にこの二人は、およそ、言葉では意思疎通の不可能な二人なのだ。
しかし、兄は頑固だが、弟を憎んでいるわけではない。弟は頑なだが、どこかで兄になついている。ウンリュウをレースに出すと発表した食卓で、「学、テツヲ、ウンリュウを頼んだぞ。」と言われて、テツヲと見交わした後、兄を見る弟の目の柔らかさ。認められたうれしさがこぼれる。兄は弟の方を一度も見ないけど、それでイイのだ。
晴子との結婚を弟が勧めるシーンでは、「お前、人のことに口出せる身分か? かかあに逃げられたくせによ!」と言われて、「そうだった。そうだった!!」と言って立ち去る、その2回目の声を高くする伊勢谷の言い方が、なぜだか楽しい。こうやって13年間のブランクを埋めていく…。論理で話し合うのではなく…。