9.スピルバーグという人は、80年代に入ると、いかにもアカデミー賞欲しい欲しい的な作品を監督するようになりましたが、結局、90年代まで取れませんでした。多分、その前にこの『1941』なるアホバカ映画を撮ってしまったので、映画の神様の逆鱗に触れ、バチが当たったのでしょう。
面白いのにね。
いや、もう、まともにストーリーらしいものはなくって、ひたすら変な人たちが現れ、ひたすらドタバタを繰り広げるだけ。なんですが、ラストに向けてそれらがちゃんと収束していき、盛り上がっていく、その楽しさたるや、もうこれはスピルバーグの最高傑作ではないか。とは思いませんが、でも実に楽しいのです。
それに、ジョーズのパロディから始まる本作ですが、むしろ、後の作品を彷彿とさせる先取りのような作品にも思われて。インディ・ジョーンズシリーズを思い起こさせるシーンが散見されますし、クライマックスの観覧車、こりゃA.I.か。それに、本作と太陽の帝国、監督作で2度も日本軍を題材に取り上げるなんて、まあ物好きというか何というか、変わってますねえ。
という訳で、本作はもしかして、「スピルバーグが映画の中でやってみたかったこと」が最も豊富に詰め込まれた作品なのではないか、と。しかし自分のやりたいことを詰め込むのでは誰にも相手にされないので、以降の作品では、一応みんなが喜びそうな物語を提供したうえで、その中に描きたいものを盛り込んでいくようになったんでしょう。
ただし、本作におけるこのアホバカの流れは別途、ユーズドカーへと繋がり、バックトゥザフューチャーとして結実していくことになります。