2.《ネタバレ》 印象を一言で表すと"繊細"な映画。交通事故で幼い子を亡くした夫婦同士、また夫婦を取り巻く周囲の人々との交流の描写が本当に繊細です。例えば妻のベッカは映画の冒頭で隣人の奥さんが知らずに庭の植物を踏んでしまったことに気づきちょっと眉を(ホントにちょっとだけ)顰める。ここでベッカは(少なくとも子どもの死以降)神経質な人間と解る。ベッカには妹がおり、妹は姉に妊娠を告げる。妹の彼氏は経済的に不安定なミュージシャンだった。また妹はかつて死んだ兄についてベッカから見れば早々に自分の中で決着を付けたらしい。
だから中々自分の子どもの死に決着というか踏ん切りを付けられないベッカは妹のタフさにコンプレックスを抱いていることが様々なシーンでチラリと描写される。またそれらの感情の機微が画面の構図やライティングと絶妙に対応している。この様な繊細な描写が凄く多いのでとても見応えがありました。
ストーリーもとても素晴らしく、どんなに忘れようとしても死んだ我が子の事を記憶から抹消できない事を冷酷に描いている。そんな中でベッカの母親の「重さが変わってくる。最初は重かった岩が段々ポケットの中の小石に思えてくる。でもポケットの中に手を入れた時に思い出さされる。それは無くならないけど我が子が居た証だと思えば辛くない」という言葉は主人公夫婦にとって福音だったでしょう。
我が子を亡くした夫婦という重い役柄を演じたニコール・キッドマンとアーロン・エッカートは流石の演技力。自制が効かず周囲に当たってしまうベッカと、携帯電話に残った我が子が生きていた頃の動画を愛おしそうに見つめるハウイーの姿には胸が締め付けられる思いだった。