12.《ネタバレ》 シリーズの中でも名作と誉れの高いだけのことはある。
コロンボが共感を覚える犯人の登場はこの作品からで、それまでの犯人像は冷血で利己的な憎むべき対象として描かれることが多かった。
殺された異母弟よりも純粋にワインを愛した兄のエイドリアンに同情してしまう。
ワインの専門知識がストーリーにうまく生かされている。
ワインはボトルからデカンターへ移しかえることで息づかせる。
ここでミスがあるとワインが台無しになるので、高価なワインは誰にも任せず自分でやる。
ところが、一度だけ(義弟の殺害直後)他人にこの過程を任せている。
エイドリアンは吉報へのお礼だと説明するが、「手は震えませんからね」とチクリと核心を突くコロンボの言葉に、水面下での攻防を見るようでおもしろい。
逮捕の決め手になったのもワインの性質に関わることだった。
犯行時、ワイン庫の空調を止めたために40度を越えた猛暑でワインが酸化してしまった。
このワインがダメになったことを識別できる舌を持つのはエイドリアンを含めてもごくわずか。
皮肉な話だが、いさぎよく自供を承諾する犯人に好感が持てる。
その伏線として、何よりも大切なワインがダメになったことと、秘書に秘密を握られ迫られていたことが効いている。
もともと善人なので、重荷を下ろして楽になりたい気持ちもあったのだろう。
ラストで乾杯する二人には互いへのリスペクトを感じる名シーン。