1.物語の主要な情報は、登場人物が知っている事のみしか観客にも伝わらない。彼らの抱えている想いは空洞状態でぼくらにもその空洞がどういう形状のものかは知りえない。そのドーナツのように真ん中に穴の開いた今作は、ぼくらを否応無く能動的にさせる。「彼にどんな過去が?」「この先どうなる?」「どうして彼女はこうなった?」「なぜ彼はそれを求める?」「どうして彼女は受け入れられない?」様々な憶測と、登場人物の気持ちを理解しようとする行為そのものが、まさにこの劇中で「真」に描かれようとしている“人が人に歩み寄る姿勢”そのものをメタ的に感じ得てしまっている。つまり、このぼくらの生きる世界と、劇中の世界を隔てているものが無くなる瞬間を捕えようとしている。何が真実で、何が嘘か。わかりはしないが、この作品を観ている時に自ずと歩み寄ろうとしている姿勢だけは、普遍的で日常的なぼくらの真実だ。