13.《ネタバレ》 世間を何も知らない田舎娘が、東京の丘の上の小さいおうちで女中をする。自分が初めて好きになった人が、そのお宅の奥様だった。
こんな同性愛だジェンダーだが無い時代。恋愛の延長が結婚ではなかった時代。どうしたら良いかわからないタキちゃんの気持ちがよく描けていたと思う。
宝塚歌劇団から飛び出してきたような睦子なら、きっと自分を理解してくれるという直感。そして理解してくれた。
その時のタキちゃんの声を押し殺した泣き声が、見ていてコッチの心まで締め付けられそうになる。この映画イチの名場面。
『一生この部屋に暮らして、奥様や坊ちゃんの世話をしたいと思っています』狂おしいほど好きになったにもかかわらず、なんてささやかな告白だろう。
人妻の身でありながら、そこまで人を好きになれて行動できてしまう時子と、目の前に好きな人が居ながら、気持ちを伝えることすら出来ない自分。
嫉妬心からだろう、板倉に届けなかった手紙。そんな事でしか時子への愛情を表現できなかったタキちゃん。墓場まで持っていく秘密。
『街中の噂になっている奥様の不倫事件』の影に隠れた、タキちゃんしか知らない『坂の上の小さいおうちの恋愛事件』。
時子を裏切ることで、タキちゃんの恋もここで終わる。手紙に書いてある内容は解っている。でもその手紙の封を切ることは生涯出来なかった。
「私ね、永く生きすぎたの」背中を丸めて泣くタキお婆ちゃん。好きな人を裏切った事実は、何年経っても辛かったんだろう。
空襲でおうちが焼け、夫婦は亡くなった。タキちゃんにはもう、板倉の行方とかはどうでも良いのだ。
手紙を隠した意味がイマイチ解っていない健史。恭一の「そんなに苦しまなくて良いんだよ」は、時子の代弁なんだろう。
今回2度目の鑑賞で↑のような感想になりました。こんなに良い映画だったか?と再評価。
「床がベタベタするわ」時子は体が火照ると足に汗かくんだな。何も言わずに床を拭くタキちゃん。
仕事から開放されて女中部屋で雑誌見ながらくつろぐタキちゃん可愛い。
南京陥落で大喜びはわかる。江戸末期からずっと戦争してたんだし。でも戦中のトンカツとか、ちょっとビックリするけど実際あったんだろうな。
おうちを焼く焼夷弾。『母と暮せば』でも思ったけど、山田監督の描く爆撃は、短時間で大事なものを破壊される恐怖が見事に描けている。