2.《ネタバレ》 明治がそのまま真空パックにされて眼前に出現したかのような錯覚を起こす。
それほどまでに自然が美しく、回想シーンの画面を白く暈した靄掛かった
縁取りで描く演出法も、当時の匂いが鼻腔に漂って来る様な極めて効果的な成果を
挙げている。
所々に挿入される伊藤左千夫の短歌も情感を盛り上げ、脂の乗り切った天才監督の手に掛かれば映画は斯くも美しくなるという見本の様な作品だ。
主演二人の何ともおぼこい清純な演技も見事なもので、特に有田紀子の可憐さはその報われない悲劇的な結末を予感させる愁いのある瞳を含め、忘れられないものとなった。
映画には純愛物というカテゴリーが存在するかとも思うが、その最高傑作と言っても過言ではあるまい。
「政夫さんはリンドウのよう。私リンドウが好きになった」
映画の黄金時代は、天才監督の演出で、可憐な女優の口を通じて最も凝縮された純愛を充分なリアリティを以って画面に焼き付けた。