13.《ネタバレ》 うう。
「お母さんはどうした」って、あのセリフが引っかかってしようがないのですが、そうすると花守湖さんのおっしゃるとおりなのでしょうか。なぜあそこで妻の母の話が出る。
そうすると根本的に違う話になってきます。私はうっすらと「過去がない人間がいったいどうだというのか」と考えながら見ていたのですが、素直に見ると「過去がなければ悪意ももたない」というふうに見ることができます。
この話でもっとも重要なのは「悪意と善意」です。ぜったい悪意がありそうな人が、実はそうでもなくて助けてくれるという、私たちが通常認識している「この世界」とは違う世界がここにある。
「過去がなければ悪意をもたない」のなら、「悪意は過去に原因がある」であり「過去の出来事が人に悪意をもたせる」でしょう。
けれどけれど、花守湖さんの説のとおり、そして「お母さんはどうした」を素直に受け止めるなら、カレは「過去があるけど意図的に悪意を捨てようとしていた」になります。そして作り手はカレに何も説明させないので、うっかりと見過ごしてしまいそうになります。
すると、溶接工なのに「オレは農民だから」とじゃがいもの処分方法についてしつこく説明するとかいう部分はなんだったのでしょうね。身元を隠したいなら港で突然溶接作業を手伝ったのはなぜなのか。
カレの行動は謎だらけで、カウリスマキの意図は解明できません私には。
とりあえずカレは「悪意を捨てる」ことに成功しました。意図的にか、図らずもかは不明ですが。
そして1人も魅力的な容姿の人物が出てこないこの作品を見て、うすぼんやり思いました。私たちは若くなくても、美しくなくても、お金がなくても、役に立たなくても、〝生きていてもいいのだ〟と。それどころか〝恋をしてもいい〟だし〝他人の善意に甘えてもいい〟でさえあるのです。
こういう感想を抱かせる映画はあんまりない。死にたい気分の人はぜひ見てほしい。
それから「なぜ電車の中で寿司を食う!ジャパニーズ・サケを飲む!クレイジーケンバンドのムード歌謡を流す!」!!
この監督は馬づらの女性が好みみたいです。なかなかひねった趣味です。