7.《ネタバレ》 サスペンスには何も殺人が必要なのではなかった。人殺しなしでも作れるサスペンス映画の傑作。とりわけ前半は「アルコール依存症はいかにして酒を得ようとするか」というモチーフだけで、グイグイ見せていく。冒頭の窓辺に吊り下がった酒瓶だけでもう観客の心をつかむ。回想の中でのオペラシーンも傑作。ほかの観衆は「乾杯の歌」に聴き入っているのに、主人公だけはステージ上の乾杯の酒そのものに魅入られている。そしてステージ上のコーラスたちの揺れ動く姿が、外套の中に忍ばせていたラム酒を強く喚起していく幻想。セリフなしで彼の心中の動きが伝わってくる。ピークは酒場で隣席の客のバッグを盗むあたりから、タイプライターを質入れしようと街を彷徨するあたりまでのシークエンス。酒の代金を盗めてホッとしたあとトイレから室内に戻ってくるときのほかの客たちの視線で、ジワジワと発覚を知らせてくる緊張の高めかた、惨めさのどん底の室内でライトの上の酒瓶が神の顕現のように(あるいは悪魔の魔法のように)光っているとこ、シャンと立ち直ろうとする気持ちがどんどん崩れていく怖さが圧巻である。田代まさしもこんな心理的体験してたんだろうな、としみじみ思う。おそらく監督はサスペンス映画を作る楽しみで前半突っ走り、原作がどうなっているのかは知らないが、最後で映画の啓蒙性に考慮したような落着をとりあえず付け加えた。尻すぼみにはなってるが、映画にはそういう社会的使命も当時あったのだろう。看護士が依存症の幻覚について「ピンクの象は出ないが…」と言っていた。あちらでは過度に酔うとピンクの象が見えてくるという言い回しがあったんだな。ダンボが酔っ払ったときの幻想シーンがピンクの象から始まるのは、その通言に乗っかってたんだと、いまさら納得した。 【なんのかんの】さん [CS・衛星(字幕)] 8点(2012-03-20 12:29:30) |
6.「サンセット大通り」もそうでしたけど、ビリー・ワイルダーって人は人間のダーク・サイドを描く方が絶対に長けてる。この映画の主人公の滑稽さはほとんどコメディですけど、彼は何かに取り憑かれてる。それが「酒」か「悪霊」かの違いだけで、取り憑かれてることに違いは無い。憑かれた人間は他人の目には滑稽に映り、且つ恐ろしいものです。従って映画は、徐々にスリラーかホラーの様相を呈してくる。そして「こいつは何かやらかすんじゃないか」というサスペンスが張り詰める…。本作はヒッチコックより見事に滑稽さと恐怖を同居させてると思います。アメリカだけでなくヨーロッパだけでもない、両方で受賞してるってことも伊達じゃない。これはエンターテインメント性と芸術性の両方を評価されてるって証拠です、8点献上。 【sayzin】さん [CS・衛星(字幕)] 8点(2006-04-22 00:01:49) |
《改行表示》5.音楽、怖すぎっ!そしてとうとう幻覚となって現れてしまった小動物のコウモリ怖すぎっ!いきなりねずみが襲われてしまって 血ぃ垂らしてるしい(笑)とにかく、しょうもないホラーよりかは全然怖かった(音楽が。←ココ強調!)そして、ドラマとしての部分を見るならば、恋人役のへレンの存在がかなり光ってた。キスのたんびにドンをかがませる手招きや、ドンが逆に咥えた煙草を間髪入れずにひっくり返してあげるとこなんて。小技が冴えていたよね。そこが良かっただ。そして最大のヤマ場は酒の入ったグラスの中に煙草を沈めるシーンだね。 そしてまとめておくならば、ストーリー的には“アル中”男が酒に溺れてしまって、けれども金が無く。あの手この手を使って酒を飲もうと企む醜い男の苦悩ストーリー。 【3737】さん 8点(2004-02-16 22:00:21) |
4.DVDが安かったので、20数年ぶりに見直しました。ビリーワイルダーは結構みんな好きなのですが、実はこの作品が一番好きだったりする...映画は娯楽ですが、中学生位の頃からこの手の作品を観て、反面教師的に学んできた事が、実は大人になって役に立っているような気がする。とはいえ、暗い作品ばかりでは疲れますが... 【かずひこ】さん 8点(2003-12-17 17:59:18) |
3.ワイルダーの冴え渡る演出マジックはオスカー作品賞・監督賞のみならず、何と大根役者レイ・ミランドに主演男優賞までもたらす凄まじさ!流石はワイルダー、これをマジックと呼ばずして何と呼ぼう。ただ…彼にしては些か”あざとい”ので申し訳ないが2点マイナス。 【へちょちょ】さん 8点(2003-10-16 03:31:31) |
2.ビリーワイルダーの中では、重いタッチで描かれてると思う。”失われた週末”という題は、色々なことを想像させる意味でとても上手い題だと思う。 【もちもちば】さん 8点(2003-10-14 15:03:46) |
1.その年のアカデミー作品賞や主演男優賞を受賞したこの作品だけど、主人公がアルコールのせいで幻覚を見るところなんかはもうホラー・スリラーの領域の入っています。コメディを得意とする監督ビリー・ワイルダーがこういう映画を撮るのにはちょっと違和感があるけど、窓から吊るされた酒瓶や拳銃などの小道具の使い方は相変わらず上手い。全体的に暗い雰囲気が続く映画だけど最後の主人公の決意にはちょっと感動したりもしました。ちなみに精神異常者などの役柄がオスカーを獲り易いというジンクスが生まれたのはこの作品からとのことです。 【かんたーた】さん 8点(2003-10-13 16:04:43) |