1.ヒッチコックへのオマージュは数あれど、これほどベタでありながら異質なスリラーに仕上げた作品は少ないだろう。裏のアパートの一室を夜な夜な覗く孤独な青年、足が不自由で身動きのままならない母親、おそらく意図的にであろうが青年はかのノーマン・ベイツそっくりだし、覗き穴から見える光景は「裏窓」そのもの。さらに母親をかついで青年が上り下りする階段は俯瞰がお約束、ここに菜食主義者の恋人や、行方不明の少女の写真が絡んで物語は異常なテンションのまま戦慄の後半に突き進んで行く。近頃流行りのサイキック・スリラーのスタイルを取りながら、人の心の奥底に潜む闇に堂々と向かい合って行くストーリーは秀逸。明快なプロットと複雑なディテール、趣向を凝らしたムード作りと全編に散りばめられたファン心をくすぐるアイテム。妄想と現実の世界を行き来する主人公の悲痛な心の内と、のしかかって来る閉塞感、お決まりの泥沼的展開。丁寧な作りと無名ながら実力ある登場人物たちに好感度大。これはなかなかの掘り出しモノであったと、思わずほくそえむ一作でした。ジョン・ウォータースの異色作「クライ・ベイビー」のスーザン・ティレル大・熱・演。