1.《ネタバレ》 砂漠のような荒野にひたすら木を植え続けた男の話。木は根を張り、木陰を作り、森に育ち、動物達を呼び、遂には多くの人の住む楽園を形成した。そこに住む人達は男のことを知らない。男は養老院でひっそりと息を引き取った。
男が行ったのは単純なこと。どんぐりを選別し、毎日100個ずつ植え続けること。その行為を営々と何十年も続けたことで奇跡が生まれた。男は何の名誉も報酬も求めなかった。ただ人として正しいと信じたことを生涯かけてやり通したのだ。一人の人間の行為がいかに尊いか、いかに偉大か、心を開かせてくれる。男の忍耐力、信じる力、誠実さ、情熱を思いやれば、人間の持つ無限の可能性が信じられてくる。
男はどういう人物だったのか。「彼と一緒にいるだけで心の安らぎを覚えた」という。人々のことを深く思いやる優れた人格者は人の心を安心させる力がある。家族を亡くして、天涯孤独の身となった男は、長年厳しい自然の中で過ごしてきた事を鑑み、木を植えるという仕事に余生を捧げる決心をした。その間、二つの大きな戦争があったが、男は戦争と関わりあいを持たなかった。自らの野望のために戦争を始めたヒトラー、片や木を植え続けた男。悪魔の行いと神の行い。人間は悪魔にも神にもなれる。
男の成功への道筋は平坦なものではなかった。植えた木の半分枯れたり、苗が全滅したりすることを経験している。それでも男はくじけなかった。自然から学んだ知恵、創意工夫を身に着けていて、逆境に打ち勝つ強い精神力が備わっていた。その原動力となったのは、あまねく人々のことを思いやる気持ちでしょう。こんこんと泉のように湧き出てくる人々への思いやり、優しさ。それが彼を偉大な成功者、偉大な人間たらしめたのでしょう。野太い生命感のある絵柄、哲学者のごとき面がまえ、適格な語り、全てが素晴らしい。