1.清純を絵に描いたような可憐な少女トリスターナと冷酷な悪女と化したトリスターナ。ふたつの顔を見事に画面に残したブニュエル+ドヌ-ブが素晴らしい。ひとつひとつの画にいろいろなことを暗示させるブニュエルの傑作。二つに分かれた道でどちらに進むかをトリスターナが自信たっぷりに選ぶシーンは、道の先での狂犬病の犬騒動でその後の彼女の悲しい運命を予感させるとともに、後半、個人主義を貫くドン・ロぺを夫としては認めなくても父としては認めるというセリフに繋がり、養父ドン・ロぺの思想を受け継いでいることを象徴している。だから結婚制度を嫌い教会を下げずんでいたロぺの、結婚を望み教会へ足を運ぶという行為はロぺ自信が自己を否定するにとどまらずトリスターナをも否定する行為となってしまう。後戻りのできないトリスターナにとっては許されない行動となる。後半の赤子を見るシーンは前半の赤子を見るシーン(家族を否定するロぺに口答えする)に観客の頭の中でフラッシュバックさせ、「こんなはずではなかった」と哀しみに暮れるとも開き直りともとれるトリスターナを映し出す。しかし自分で決めて自分で行動する個人主義に生きながら、不幸の責任は自分には無く諸悪の根源をドン・ロぺと考えるトリスターナの存在そのものがこの作品の中で一番哀しいものとして描かれている。 自分に都合の良い信仰心、自分に都合の良い無神論、自分に都合の良い家族主義、自分に都合の良い個人主義、、、人間の哀しい性で溢れている。