2.《ネタバレ》 江戸川乱歩の生誕100周年にあたる1994年に、屋根裏の散歩者(実相寺昭雄監督)とカップリングで公開された作品(サントラCDも両作品が同時収録されていました)。両作品の予告編を観たとき「これこそ江戸川乱歩の世界だ」とでもいうような怪しげでおどろおどろしい雰囲気を感じました。その後、近場の某映画館の最終時間に、当作品だけが上映されると知り、早速、観に行きました。
印象深いテーマ曲と共に、暗闇に光が一つ、また一つ…と少しずつ増えていくように字が現れるスタッフ・キャスト紹介のオープニングに期待が高まりましたが…いざ本編が始まると、思ったほど、怪しげでおどろおどろしい雰囲気を感じることが出来ず、むしろ綺麗な映像だと思いました。また「原作をそうとう脚色している」と直感したものの、どこまでが原作で、どこからが脚色なのか…という点に引っかかってしまいました。また、一般的な娯楽映画と異なり、各場面のつながりを時系列・論理的でなく、意図的に崩す演出をしていたこともあり、最後まで没入できずに終わりました。
しかし再び観たいと思いました。何故なら、映画とは別に、当時の私は「お年寄りの方々に対し“人は誰しも、子供時代があって現在があるのだ”という意識を持って接するべきではないだろうか…」と自問自答していたからです。その意味で、当作品はとてもタイムリーに思えたのです。
後日、原作を読み、脚色部分との区別がついたので、別の機会にもう一度、映画館に足を運びました。今度は、私なりに、ずっと“わかる感じ”がしました。自分の人生に否定的だった孤独な老人が、亡くなる直前に【転機となった少年時代/現在/空想】との間を錯綜しながら折り合いをつけ、幸せな気持ちで旅立ってゆく過程を描いた作品…と受け止めたのです。少年時代では、夫に振り向いてもらえずに満たされぬ思いを抱えた義理の姉との危うい関係が、陰影に富んだ映像で上手く表現されていたと思います。そして登場人物が一堂に会して蜃気楼を観るラストシーンは、極楽浄土を示唆しているのでは…と思いました。
ただし【双眼鏡の前後を逆にして覗くことで、兄が実際に小さくなり、そのまま押繪に入っていく】という原作の場面は、映画では【少年が双眼鏡を覗くと強い風が巻き起こり、次の瞬間、兄は押繪に入っていた】と間接的に描いていました。そのため、原作を読んでいないと、何故、兄が押繪と一体になり得たのかは、わかり難いのでは?…と思いました。もっとも、原作を既読の上で観る人が大半なのかもしれませんが…。
結局、その後、レンタルビデオでも何度も観ましたし、サントラCDも買って現在に至ります。CDには、ラストシーン向けの別バージョン曲も収録されていました。明るいメロディーであり、やはりラストは極楽浄土だったんだろうな…と思いました。なお、現在、自分が調べた限りでは、DVD収録版は発売されていないようで残念です。
さて、採点ですが…所謂【見応えたっぷり/永遠の名作】といったタイプの映画ではありませんが、私にとって、江戸川乱歩の原作を活かした佳作として強く印象に残る作品です。大甘かもしれませんが8点を献上いたします。