3.最初は在日朝鮮人や知的障害者というテーマから堅い映画なのではと思っていたが、冒頭の養護学校の先生の「オハヨ・オハヨ、スズメもチュンチュン・・・」という歌と、その後のサムと父親とのやりとりの中で「けっこう毛だらけネコ灰だらけ・・・」という「男はつらいよ」シリーズの寅さんが使う文句が出てきてこの二つで笑ってしまい、そこから一気に引き込まれた。とにかく養護学校の直子先生の元気なハッスルぶりや、原田芳雄と倍賞美津子演じるサムの両親、塩見三省のキレまくる刑事など出てくる登場人物たちがどれもこれも熱く魅力的。(中でも直子先生のはつらつとしたキャラクターは気に入った。)晩年を迎えて枯れているのではと心配だった森崎東監督の演出もパワフルでとても撮影当時70代後半だったとは思えないほどの勢いと若々しさがあり、前回見た森崎作品がデビュー作の「喜劇 女は度胸」だったのだが、その頃と比べても全く演出力が衰えていないと感じた。確かに映画としては後半がムチャクチャな印象があるし、変わったバカな映画かも知れないが、人情喜劇としての楽しさはじゅうぶんだし、それでいながら堅苦しくなりがちなテーマもさらっと描いていて、その中に森崎監督の社会に対する怒りも感じ取れ、これが森崎東という監督の本質なのだなと思う。今どきの日本映画には珍しい社会派喜劇の傑作。