1.作中での人物のクロースアップはかなり頻繁だが、
それは構図から逃避するための安易なものでは決してなく、
一個の生命の個性を、感情を強固に描写するためのものに相違ない。
米軍のヘリが落とした照明弾用パラシュートを見つけては喜び、
米軍兵士を見事に威嚇し退散させた大蛇を振り回しては喜ぶ
ラム・トイとグエン・トゥイ・アンの農民夫婦。
そのパラシュートを利用して衣服を縫う。大蛇の皮を剥いで太鼓を作る。
ヘリに見つからないよう、木々の枝を揺すって炊事の煙を拡散させる。
赤ん坊をビニール袋に包み、共に水中に隠れて空襲から守る。
そうした生活の一部としての戦争描写もまた、
彼らの印象的な表情と共に、丹念かつ具体的だ。
同時代の体験者ならではの顔であり、居住まいであり、リアクションである。
同時に米軍パイロット側のと表情のドラマも並行することで、
ラストにおいてその妻子の顔写真と、それが燃える様を見つめる
グエン・トゥイ・アンの表情が胸を打つ。
そして、時に詩的な趣きをみせるメコンデルタの葦原の情景描写も瑞々しく
素晴らしい。
ヘリに狙撃されるシーンの仰角・俯瞰のカメラワークが醸成する迫真の緊迫感は、
『北北西に進路を取れ』のトウモロコシ畑にも決して負けない。