1.《ネタバレ》 「ゲイの政治家を描いた作品」が面白いわけがないとレッテルを貼り付けて、今まで敬遠してきたが、いざ鑑賞してみると、飽きる部分がほとんどなく、映画自体が意外と面白い。
ゲイの気持ちはさすがに理解できず、コアな部分については感情移入しにくいが、マイノリティに対する人権侵害を許さない戦いという観点から見れば、感情移入することもできる。
自分らしく生きられない人々、自分を偽って“クローゼットの中”で生きなくてはいけない人々が、自分らしく生きるための戦いは美しくも感じられる。
彼ら自身の戦いだけではなくて、自分達と同じような迫害や苦しみを味わなくてはいけない子ども達のための戦いでもあるというのも、素晴らしいメッセージだ。
また、ハーヴィー・ミルク一人の戦いではなくて、彼の仲間や彼の支持者、彼の言葉を聞いた者、彼の当選を知った者たちによるムーブメントがこの流れを作ったことがよく分かるようになっている。
チカラのある一人の戦いではなくて、迫害を受ける人々それぞれ一人ずつ立ち上がってこそ、世の中を変えることができるパワーを産むということが伝わってくる。
まさに彼が行ったのは“リクルート”ということだろうか。
ハーヴィー・ミルクについては何も知らなかったが、本作を観れば、彼の生き様、彼の夢、彼の希望、彼の志、彼の愛がはっきりと見えてくる。
当該人物について何一つ描けていない伝記モノが多い中において、本作は極めて優秀な伝記モノとジャッジすることができる。
ただ、本作を見て、ハーヴィー・ミルクについて、清廉潔白な偉大な人物であるとは思わなかった。
ガス・ヴァン・サント監督は、彼をリスペクトする気持ちはあっても、彼を美化する気持ちはないと感じられた。
そういう意味においても、なかなかフェアな映画に仕上がっている。
彼は“特別な存在”ではなくて、恐らく“誰とも変わらない普通の男”ということなのかもしれない。
ゲイについては、さすがに気持ちも分からず、身近にもいないので、彼らの心情を深く理解することはできないが、彼らに対する“偏見”はやや無くなったと思う。
本作には、そのような効果もきちんと含まれている。
アカデミー賞作品賞ノミネート、主演男優賞受賞は偽りではなくて、本作に対する妥当な評価といえる。