2.《ネタバレ》 精神崩壊寸前の人物を描かせると、ポール・シュレイダーは相変わらず良い仕事をします。ニック・ノルティ演じる主人公の姿がとにかく痛々しいこと。彼はみんなと、特に娘とは仲良くやりたい、尊敬される存在になりたいと願っています。しかし幼少期に父親から酷い虐待を受けたために人格が正しく形成されず、ちょっとズレた人、身近にいると面倒くさい人になってしまいました。冒頭に描かれる娘とのハロウィンでのエピソード、彼は久しぶりに会った娘を楽しませようと張り切っていたのに、無意識のうちにルーズな部分が出てしまって娘の機嫌を損ねてしまいます(「タクシードライバー」のデート場面とよく似ています)。この時の主人公は憐れなほどにいたたまれないし、一方で「変なことに付き合わされるのは迷惑」という娘の気持ちも理解できます。このふたりの間に漂う気まずい空気、これこそがポール・シュレイダーの真骨頂、他の監督ではなかなか出せない味です。そんな主人公はある事故の真相究明に乗り出すのですが、熱くなると我を忘れるという本来からの気質の上に、親権裁判、母親の死、自分を苦しめてきた父親との同居等々のストレスから正常な判断能力を失い、妄想に取り憑かれてしまいます。「みんな俺をバカだと思っているようだが、この事件さえ解決すれば俺は一躍街のヒーローとなり、すべての問題は片付く」。大統領候補暗殺にのめり込んだトラビスの如く、彼は妄想上の事件に向けて走り出してしまうのです。その出発点が「娘から尊敬されたい」という純粋な思いであり、父親からの虐待という不可抗力から人付き合いを苦手としてしまったという根本原因を踏まえると、本作の主人公が狂気に墜ちていく様はあまりに悲惨なものでした。本作は「タクシードライバー」をより普遍的にした物語であり、もっと評価されても良い作品だと思います。