1.メキシコの麻薬カルテルはとにかくヤバイ。2006年から2012年の6年間で7万6千人もの死者を出すという過激な抗争を繰り広げ、時に敵対勢力の村民を女・子供に至るまで皆殺しにするというトンデモない残虐性を見せており、もはや手のつけようのないレベルにまで達しています。他方、長引く対テロ戦争の影響でアメリカ国内には従軍経験のある若者がゴロゴロしており、世界一の先進国でありながら、血生臭い戦場の記憶を持つ世代が現在進行形で生み出されているという、なんとも異様な国家となっています。そんなメキシコのマフィアとアメリカの従軍経験者が、アメリカ国内で戦争をおっ始めたらどうなるのか?本作の切り口は非常に魅力的です。。。
監督はオリバー・ストーン。かつては映画を撮る度に論争を巻き起こしていたハリウッド随一の問題児も、『アレキサンダー』を大コケさせて以降は目立った映画を作っておらず、いよいよ才能も枯れたかと思われていましたが、本作では久々に目が覚めるような手腕を披露しています。多くの登場人物の思惑が入り乱れる複雑な物語を混乱なくまとめ上げ、ユーモアもドラマ性も残虐性も絶妙なバランスでブレンド。さらにはアクションの出来も上々であり、この手の映画としては間違いなく最高レベルの仕上がりとなっています。そう、この人は『スカーフェイス』の脚本を書き、『ナチュラル・ボーン・キラーズ』を監督してバイオレンス映画の歴史にいくつもの足跡を残してきた人なのです。全盛期を彷彿とさせる脚本や演出の切れ味には唸らされました。。。
『野蛮なやつら』というタイトルは逆説的で、実際に野蛮な人間は出てこないという点が本作のポイントとなっています。映画では目を背けたくなるような暴力が繰り広げられるのですが、各キャラクターの立ち位置を考えれば、どの暴力にも合理的な目的が存在しており、ナチュラル・ボーン・キラーは一人も登場しないのです。暴力や殺人が肯定されうる状況が存在すること、本作で描かれているのはその恐ろしさなのかもしれません。上記のメキシコ麻薬戦争も、テレビのニュースで見る分には「あら、野蛮ね」なんて上から目線で悠長なことを言っていられますが、当事者としてその抗争に巻き込まれれば、自分達だって同様のことをするかもしれない。そこに暴力の根深さがあります。