3.《ネタバレ》 死にたいのに死ねない、死にたくなるほど辛いのに助けを求めない、というセルフネグレクトの主人公に近付くことが出来ない。説明が極端に少ないのは狙った演出である。
なぜならPTSDに苦しむ人を、心底理解することは無理だからだ。
苦しみながら自分をごみのように扱う主人公を、近寄りがたい雰囲気を醸し出すこの人を、ただ見ているだけしかできない。
軍人だった経歴があるので公的援助を受けられるのに、あえて拒否しているのは死を望んでいるからに他ならない。
まだ生きているのは母がいるからだ。
虐待をしていた父から自分を護りきれなかったであろうと思われる母は、現在は高齢のため虚弱になり認知機能も衰えたため自立して生活することはできずに支援を必要としている。
主人公にとってそんな母親は安らぎでもあり足手まといでもあるが、この世に自分を繋ぎ止める切れそうな細い糸でもある。
そしてもうひとつ主人公には生きる理由があることに気付く。
HPで主人公は行方不明者を探すエキスパートと書かれているが、寝ていないのにそこら辺はよく分からない。過去の自分が受けた虐待とそれを押し退けた方法で、現在にも対応しているようにしか見えない。もう子供ではないのに、フラッシュバックで何度も悲惨な場面を体験するのだから。
それでも主人公は自分のような目に合っている子供たちを助け出したいのだ。それは、連絡係?の雑貨屋主人の子どもを現場で見たことが許せなかったり、湖から上がってずぶ濡れのままニナを救いに行ったりすることでそれが分かる。
それをするために主人公は死ぬことを先延ばしにしながら生きていた。
反対勢力の相手に喜んで制裁を下していたのではないとわかるのは、追い詰めた相手が死に瀕して主人公の手を握るがそれを振り払おうもせずに寄り添ったところだ。
因果応報。暴力を行う者もまた暴力を受ける。主人公はそれを心底理解していた。
だからニナの行ったことに対して死にたくなるほど動揺する。それは二度と起きてはいけないことであり、自分が阻止しなくてはならなかったことなのだ。
湖のシーンはシェイプオブザウォーターのラストに匹敵するほど印象的であり、その後に起きた一連のことが自分にとって物凄くショックだったようで、何だかわからないが後半ずっと涙が垂れていた。
復習や勧善懲悪とは違う、やることやって早く死にたいという願望だけで生きている主人公が痛々しく、救ったはずのニナに救われて、エンドクレジットの後は是非違う道を歩んでほしいと切実に願った。