1.《ネタバレ》 この原作を映画化するんだったら、最初の方のスタジアム爆破計画のエピソードは丸々カットするしかないんじゃないか、物語の構成としてイビツだし、イデオロギー的なキナ臭さもあって某国への興行展開に対し足枷となる可能性もあるし・・・と思っていたら、まさにその通りで。
後者の件はともかく、前者の「物語のイビツさ」という点で、このやたら登場人物の多い原作小説、ちょっと違和感があります。一種のスパイ小説である以上、それらしく錯綜した物語にしようということなのかどうなのか。一過性のエピソードと後に繋がるエピソードとをわざと混在させて読者の的を絞らせないようにしているのか、どうなのか。ただ、正直、やや散漫な印象を受けるし、まさかとは思うけど、全体の骨格が無いまま小説の連載を始めちゃったんじゃないか、、、とか。
で、この映画。登場人物もバッサリと削ぎ落して、複数の人物の役柄を限られた登場人物へと統合し、原作を徹底的に整理して、いや、実に見事。お陰で、竹内涼真演じる田岡君、大活躍の巻、となりました。しかも、この映画を見ると、主人公の鷹野にとって、田岡君の存在は、幼少時に救えなかった弟の姿と重なっているんですね。これがクライマックスの沈みゆく貨物船からの脱出劇の場面で示唆される。と同時に、水責めのこの場面と、かつての鷹野を火の中から助け出そうとする風間の姿が並行して描かれ、両者がオーバーラップすることで、血の繋がりは無くとも鷹野にとって風間は父であり、この作品が、親が子を、兄が弟を命がけで守ろうとする物語であること、が伝わってきます。
そこにはまた、育児放棄による悲劇への怒りも感じられるし、子供を失った親の悲しみ(鶴見辰吾と宮崎美子)というものも活きてくる。オムライスの役割まで、活きてくる。
原作をすっかり再整理しているとは言え、基本的には原作に沿っている訳で、そう思うと、やや散漫に思えた原作小説も実は、「これだけのポテンシャルを備えていた」という風に捉えるべきなのかも知れませぬ。
映画はアクションも盛り沢山で、海外ロケがまず雰囲気を出してますが、それだけじゃなく、これだけのアクションシーンをよく現地で撮り切ったもの。CGの使い方も巧みで、違和感を感じさせません。また、CGを使ってもなお描写が難しそうなシーンというのもどうしても出てくるのでしょうが、そこはシーンの切り替えなど、演出上の工夫でうまく省略したりして、スムーズに物語を紡いでいきます。
藤原竜也という人は若く見えすぎるところがあり(貫録がない?)、この鷹野の役、合うんだろうか、と心配してたら、うむ、やっぱりちょっと合わないか。でもスタントシーンもしっかりこなして、だんだん違和感が無くなってくる。
満足度の高い映画でしたよ。
ところで原作の中で一番、読んでてひっかかったのが、「新型の太陽電池の性能が従来の100倍くらい」というくだりで、それだと地表に届く太陽光エネルギーよりも発電される電力の方がはるかに高くなっちゃって、もはやオカルトの世界(どうしてこんな荒唐無稽な設定を入れてしまったのか)。細かいことをあげつらってもしょうがないとは言え、さすがに読む手が止まってしまいます。で、映画化の際にはさすがにまずいと思ったのか、「10倍」に値切ってますね。まあ、大差ないですけど。。。