1.《ネタバレ》 アメリカンドリームが華々しく煌びやかであるほど、あぶれた分だけ漆黒の絶望が広がっていく。
虚栄と強欲にあふれたアメリカで偽りの自由に囚われ、"アメリカ人"として生きていくこと、そして己の帰属意識とは?
「期待はしていない」と常にやつれた顔を見せる建築家。
ホロコーストから逃れても、新天地でも差別され、搾取され、凌辱されて支配される。
緩慢な地獄、そしてシオニズムへの回帰。
ブルータリズム建築物はコンクリートを中心に構成された、どこか無機質で冷たく、コントロールされた印象を受ける。
それはタイトルの語源である"Brutal"="残忍な"を意味する通り、
人間の残忍さだけでなく、狡猾さ、傲慢さ、醜さ、愚かさと卑小さを兼ね揃えている誰にでも持つ本質。
それでもなお、その先にある"到達点"こそ重要であると。
ユダヤ民族の苦渋の歴史を生々しく映しながらも、尊厳としての、抵抗としての建築物を残すこととリンクする。
そこに意思を貫こうとする"美しさ"があった。
(ただ、イスラエルのガザ侵攻を見るに、公開時期的にタイミングが悪いとしか言いようがない)。
215分の長尺であるが2部構成に分け、中盤に15分の休憩時間を差し込むことで、
意識の切り替えと後半への期待を寄せる、故に観客を退屈させない仕組みを構築している。
昔の大作映画にはそういうものがあったそうで、今までにない貴重な体験。
オープニングとエンドクレジットの意匠凝らしに、
クラシックへの回帰だけでは終わらせないアーティストとしての矜持を感じた。
そう、本作の監督はブラディ・コーベット。
ミヒャエル・ハネケのリメイク版『ファニーゲーム』に出演したぽっちゃり系の若者は生き残るため監督へと転身した。
若さ故だからこそ挑発的な作りであり、巷にあふれている消費されるだけの映画業界に対して抵抗を叩きつけた。
粗削りで暴力的とも言える野心たっぷりで、負けてたまるかと言わんばかり。
次世代のアーティストが力で押さえつけようとする時代と戦い続ける限り、これだから映画はやめられない。