2.《ネタバレ》 張芸謀の「秋菊の物語」「あの子を探して」「初恋のきた道」の共通点は、無知な女主人公が恐るべき執念で自らの信念を貫く物語である。日本人にはなかなかいないタイプの人間像で、何よりも世間体など気にせずに行動するのがすばらしい。「あの子を探して」「初恋のきた道」の場合は自らの望みをかなえることができたが、「秋菊の物語」はどうだろうか?女主人公にとっては全く納得のいかない結末を迎えることになるのだ。
一般に現代では中国でも日本でも個人間の諍いは金で解決しようとするが、秋菊は村長が金を払っても、その尊大な態度が気にくわない。心から謝罪しないからである。秋菊が怒るのは当然だ。徹底的に抗戦するのも当然である。実際彼女が頑張ることで、村長は傷害罪で捕まることになったのだが、彼女にしてみれば単に村長に謝罪してほしかっただけなので全く不本意な結末なのである。しかも傷害罪で村長が拘留される前に、彼女の出産を村長が助けており、心情的には村長に感謝こそすれ憎しみは消えうせていた。なんという皮肉な運命だろう。しかし世の中はこんなものだとあきらめねばならない。何故なら傷害罪を働いたのは事実でそのためには罰せられなければならないからだ。これが社会のロジックで、この方がわかりやすい。出産は偶然の出来事であり、それで村長のいいところが見えてきたとしてもそれはそれ、これはこれである。人間にはいい面と悪い面が誰にだってあるのだ。秋菊が申し訳ないと村長に対し思うのであれば、これから村長や村長の家族を助けてやるしかない。これでいいのだ。秋菊は本当によくがんばった。
え?これがあのかわいいコン・リー?と思うほど、ふてぶてしくやぼったい山村の妊婦を好演している。一世一代の名演であろう。山村や町の風物もとてもよく描かれており、この映画を風物詩として見ても十分楽しめる。にぎやかな明るい家族、村の人々との交流がとても美しく描かれている。今から50年たてば中国の山村も大きく変わっていることだろう。そのときこの映画が映し出す人々の生活をきっと皆感動と郷愁の思いを抱いて見ることだろう。