1.れっきとした劇映画だが、アンカラへ向かう列車から撮られた風景の点描や、
アンカラ市内のゲリラ撮影的な街頭ロケが土着的な音楽の数々と共に非常に生々しい。
手狭な列車内などでは人工照明も不十分なため、
明度も様々な粗い映像となって即物的なリアルを浮き上がらせる。
街中を行進する羊の群れと民族衣装を纏う主人公たちに好奇の眼差しを向ける
市民の表情やリアクションは、演技ではないだろう。
強盗によって喉を掻き切られる羊のショットなども強烈だ。
そうした、フィクションの中に度々介入してくるノンフィクション的なショットとの
絡み合いの構造が、同時代の批評となると共に被写体に緊迫した存在感を与えている。
口をきけなくなりながらも夫を慕う病弱の妻の身振り、籠の中の鳥を慈しむ姿。
長旅によってさらに衰弱したその彼女を背負い、人混みの交差点を彷徨う
夫の献身の姿。そして彼女の死を侮辱され半狂乱となる痛切な姿もまたそこで際立つ。
具体的に提示される羊の数、貨幣の金額もこの映画では重要な要素だ。