5.《ネタバレ》 巻頭の劇中テレビ映像。よそ行きの作業ジャンパーで仰々しく避難所を慰問する当時の首相の「パフォーマンス」を邪魔するかのように、一張羅の寅が画面手前にCG合成される。
政治風刺を絡めたギャグとCG用法が共にさりげなく巧い。
渥美清の身体的ハンデも、津山の一方通行の路地や、奄美大島の海辺で吉岡・後藤が担う一進一退のアクション性が充分に補完している。
エピローグは、震災後の神戸市長田ロケ。墓に手向けられた小さな菊の鮮やかな黄。
寅が画面右手にフレームアウトした後も留まるカメラは、背景の赤錆びた瓦礫の間から真っ直ぐに茎を伸ばしている菜の花の黄を捉え続ける。
そして長田マダンでの民族舞踊の華やかな色彩の輪と活気。そこからカメラは引き、プレハブ住宅が立ち並ぶ再生と復興の長田地区俯瞰ショットが見事に映画を締めくくる。
被災者が求めるものは、同情でも応援でも祈りでもなく、「そばにいて一緒に泣いてくれる、そして時々面白いことを言って笑わせてくれる人」だと、現地から熱望されたという「車寅次郎」。
彼と被災地の再生への希求が込められた万感のラストショットだ。