3.《ネタバレ》 大変灰汁の強い、大人の恋愛映画だ。男を信じられなくなった女と、女を信じられなくなった男が異国で邂逅する物語。女、アミーは流れ流れてモロッコに辿り着いた旅芸人で、舞台で歌を唄うが、林檎も売る。男、トムは三年前に過去を捨てて、外人部隊に身を投じた二枚目の兵士で、女には目がなく、上官の妻との関係が露見して問題となる。二人は一目で相手を気に入るが、心に傷があるため疑心暗鬼で、気持ちの探り合いで終始する。トムの前線行きが決ると、トムは脱走を決意し、アニーを誘った。アニーは誘いに応じる。ところが、アニーが金持ちと婚約しているのを知ったトムは身を引く。また男に騙されたと思った女が、別の男との結婚に同意しながらも、男を忘れられず、男の本心を知って追いかけるまでの心の動きが肝だ。劇的な展開は無い。
気怠げな上目遣いの表情、甘ったるい指の仕草、軽妙で洒落た会話、物憂げにくゆらす煙草、ルージュの別れの伝言、鏡に投げつけられる酒、飛び散る真珠、卓子に彫った名前、裸足で後を追う姿、様々の洗練された恋の仕草や表情が見られのが特徴で、この映画の最大の魅力だろう。アミーの仕草はとりわけ魅力的だ。
擦り切れた心が癒えるには、異国と言う舞台が必要だった。人は異国にいると、時に望郷の念にかられ、時にもの寂しくなり、世捨て人の心もつい緩みがちになる。暑苦しい日中、灼熱の砂漠、そして戦争という悲劇が気持ちを駆り立てる。二人の心の渇きと憔悴を暗示するのに相応しい。この映画は舞台立てに成功し、且雰囲気づくりが秀逸だ。とても才能のある監督と思う。遺憾なのはトム役の役者が大根であること。
尚、砂漠では水分の蒸発が著しいため一日6Lの水が必要となる。その為、砂漠を横断するには食糧と水を運ぶラクダか馬が不可欠とで、軍隊が歩いて横断できるものではない。又日中の砂の地表温度は70℃以上にもなるので素足では灼けてしまう。監督は全てを承知の上で、あえてあの衝撃的な最終場面を選択したのだろう。印象に残った科白は次の三つ。「結婚するほどの男はいないわ」「女にも外人部隊があるのよ。ただし、制服も軍旗もない。勲章はもらえない。だけど勇敢よ。傷つくのは心だけ」「もう一度、男を信じさせてくれるの」